怒 濤 台湾郷土文学選集

2,916円(内税)

本作品は、陸一族の人々に起こった出来事を通して、二・二八事件とその前後の 社会情況を浮かび上がらせている。物語は、陸一族が住む村(桃園県龍潭)、主人公陸志【馬+良】の職場のある山村東流と山林、医師陸維林の住む台北を舞台 に、登場人物を通して戦後初期の台湾のさまざまな世相を描いている。超インフレ、経済の困窮、収賄行為の常態化、外省人の横暴、法治の崩壊、そこから生じ た台湾人と外省人の対立等である。後半では一九四七年二月二八日、台北での民衆の蜂起、台湾各地への波及、国民政府の武力弾圧が描かれ、元日本の零戦基地 での攻防戦によってクライマックスに達する。ただし本作品の主な狙いは、陸志【馬+良】、陸志麟、陸志鈞という主要な登場人物を描くことにある。鍾肇政氏 自身も、本書の執筆意図を「あの時代、あの時代の台湾人、とくに若い世代を再現したかった」(『怒濤』後記)と述べている。 本作の読みどころは、日本語による会話である。志【馬+良】、志麟、志鈞の会 話は日本語でなされ、志【馬+良】の姪、国民学校の教員をしている秀雲、志【馬+良】の恋人のゆみとの会話も日本語である。彼らの世代は、日本語によって こそ、自分の気持ち、さらには夢や希望を表現することができるのである。このことを、彼らが日本の統治と教育に同化―さらには戦後初期にいわれた「奴隷 化」―とみなすこともできよう。しかし志【馬+良】たちは少しもそんなふうに思ってはいない。志【馬+良】は、志鈞や志麟に劣等感をもち、人に引け目を感 じている。ただしいったん日本語を使うや、すぐに同世代とうちとけることができるのである。日本語は彼らにとって自らを解き放ってくれる大切なコミュニ ケーションの手段なのである。それゆえ、国民党の天下となり、日本語が棄てられていくことも、志【馬+良】のもむなしさの一面をなしているのだろう。(本 書「解説」より) 鍾肇政著 澤井律之訳(第2回配本) 研文出版 A5判 296頁

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